世界遺産 現代人類の出現:南アフリカの更新世居住遺跡群
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Photo by © Pierre-Jean Texier
現代人類の出現:南アフリカの更新世居住遺跡群について
人類の「知の進化」を解き明かす3つの拠点
この遺産を構成するのは、西ケープ州の沿岸部にあるディープクルーフ岩陰遺跡とピナクル・ポイント遺跡群、そしてクワズール・ナタール州にあるシブドゥ洞窟である。これらの遺跡には、約16万年前から3万5千年前までの更新世(氷河時代)における人類の生活痕跡が驚異的な保存状態で残されている。東アフリカが人類の身体的進化の揺りかごであるならば、南アフリカのこれらの遺跡は、人類の「精神的・文化的進化」の揺りかごであると評されている。
象徴的思考の誕生:ディープクルーフ岩陰遺跡
ディープクルーフ岩陰遺跡では、約6万年前のダチョウの卵殻の破片が多数発見されている。特筆すべきは、これらの卵殻に幾何学的な模様が刻まれていた点である。これは、当時の人類が「水を運ぶ容器」という実用的な道具に、所有権やグループのアイデンティティを示す抽象的な記号を付与していたことを意味する。人類が象徴的な思考を持ち、視覚的なコミュニケーションを行っていた最古の証拠の一つとして、考古学的に極めて高い価値を有している。
環境への適応と技術革新:ピナクル・ポイント遺跡群
インド洋に面したピナクル・ポイントでは、約16万年前という極めて早い段階から人類が海洋資源(貝類など)を計画的に利用していた痕跡が見つかっている。これは、潮の満ち引きという複雑な自然のリズムを理解し、食料源として活用していたことを示している。また、ここで発見された石器からは、石を火で加熱して加工しやすくする「熱処理技術」の形跡も確認された。この高度な熱工学技術は、人類の認知能力が飛躍的に高まっていたことを裏付けている。
複雑な道具と高度な工学:シブドゥ洞窟
シブドゥ洞窟は、初期人類がいかに洗練された道具製作技術を持っていたかを物語っている。ここでは、約7万年前の骨製の道具や、矢じりと思われる尖った石器、さらには植物由来の樹脂と酸化鉄を混ぜ合わせた**「複合接着剤」の跡が発見された。複数の素材を化学的に組み合わせて新しい道具を作るという行為は、現代人類に固有の高度な計画性と推論能力の現れである。また、防虫効果のある葉を敷き詰めて作られた「最古のベッド」**の痕跡も、居住環境をコントロールしようとした人類の知恵を伝えている。
ホモ・サピエンスの普遍的価値
これらの遺跡群に共通しているのは、厳しい氷河時代の環境下で、人類が単に生存するだけでなく、文化、芸術、技術を磨き、現代の私たちに通じる「人間らしさ」を確立していったプロセスを連続的に示している点にある。南アフリカの厳しい沿岸環境での暮らしが、人類の知性を研ぎ澄ませ、後の世界進出を可能にする強力な武器となった。この遺産は、全人類の共通の祖先が歩んだ、最も初期で最も重要な文化的跳躍の記録である。
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